ハーフの国籍問題PartⅡ

2011.12.27

きのう書いたハーフの国籍問題について、PartⅡです。

きのう取り上げたケースは、ハーフが生まれた時に、両親が外国の国籍は申請せず日本国籍しか申請しなかったため、「外国の国籍がほしかった」と悩むハーフの話だった。今回は、それとは逆のケース、そう、「日本の国籍がほしかった」と悩むハーフの話を紹介したい。

Cさんはスペイン育ちのハーフの男性で、父親がスペイン人、母親が日本人。Cさんのご両親も「団塊の世代」。Cさんが生まれた時、母親(日本人)が「ウチの子はドイツで育つし、将来日本に住む事にはならないだろうから」と判断したため、Cさんを日本の戸籍には入れなかった。スペインの国籍のみを申請した。

ところが時は流れ彼は成人し、親の期待(?)とは裏腹に日本で仕事をする事になった。Cさんは日本語が話せ、日本が大好きだ。長期的に日本に住むことも考え、国籍について自分で調べ始めた。でも現実は、親がCさんが生まれた時にCさんを日本の戸籍に入れなかったため、Cさんには日本の国籍はない。Cさんもまた母親に聞いたそうだ。「なぜ僕が生まれた時に、僕を日本の戸籍に入れなかったの?」と。母親の答えは冒頭の通り。「あなたが大きくなって、まさか日本に住む事になるなんて思わなかったから。」

こういうケースは少なくないのだが、少し考えると、不思議な話だとも思う。

母親(日本人)は自分が日本人であるにもかかわらず、半分日本人である息子(ハーフ)は将来絶対に日本に住まないだろう、と「確信」している点が不思議だ。少し考えれば、日本の血も流れている我が子が将来母親の国に興味を持つかもしれない、ということは親として分かるはず、などと思ってしまう。

「ウチの子(ハーフ)はずっとドイツに住む予定だから日本の国籍は必要ない。ドイツの国籍だけあればいい。」— Cさんが生まれた時、お母さん(日本人)はそう言い切っていたけれど、お母さん(日本人)だって生まれた時は、まさか自分が大人になってスペイン人と結婚する事になるなんて、そして将来スペインに住む事になるなんて、本人はもちろんのこと周りの誰も思わなかったはずだ。でも実際はスペイン人と結婚をしスペインに住む事になった。人生わからない。

実は団塊世代の一部もそうだが、団塊世代に限らずハーフの子供を持つ親の中には、ハーフの子供を持ちながら、「オレの子は日本人だー」と言い、子供に外国の国籍を与えなかったり、または上記のように「ウチの子供は将来日本に住まないはず」と自分で解釈をし日本の戸籍に入れなかったりと、後々子供が大変な思いを強いられる判断をしてしまう親が少なくない。

「団塊の世代」に関しては、当時はインターネットも無い時代だし、今のように国際結婚をしている者同士、またはハーフの子供を持つ者同士の交流や情報交換が難しかった、という点もある。そのため、自分と同じ境遇のほかの親はどういう判断をしているのかなど知る術もなかった、というのも大きいようだ。

そして当時(約30年前)は今以上に男性社会だった、という点も挙げないといけない。男性社会だった、というのは日本に限らず、たとえばドイツでもそうだ。ドイツでは、なんと1977年(!!!)までは既婚女性が外で働くためには旦那様の許可が必要だった。70年代は母親が外国人(例:母親が日本人)の子供がドイツ国籍を得るのも、父親がドイツ人だというだけではダメで、父親と母親が結婚していないと子供はドイツ国籍をもらえなかった。

日本に関しても1984年までは、「父親」が日本人だと子供は日本国籍を得る事ができたが、「母親」が日本人の場合、子供は日本国籍を得る事ができなかった。

日本でもヨーロッパの国々でも法律が男性中心で男尊女卑だった以上、当時の親が「ウチの子はパパの国の国籍があれば、それでいいや!」と考えたとしても、責められないのかもしれない。(※現に、きのう書いた「オレの子だから日本人だー!」と言いながら子供の日本国籍のみを申請し外国の国籍を申請しなかった件にしても、今日書いた「ウチの子は日本には住まない予定だから、スペインの国籍だけで大丈夫」と言いながらハーフの子供を日本の戸籍に入れなかったケースも、共通するのは「父親の国の国籍」のみを当たり前のように選んでおり、母親の国籍を無視している点である。)

さて、ハーフの国籍の問題は、国と国の組み合わせ、そのハーフが生まれた時代、親の考え方や家族形態(生まれた時に両親が結婚していたか否か、後の離婚、再婚等など)が深く関係しているので、「こういう場合はこう!」とは簡単に言い切れない。ハーフが10人いれば、国籍について全員が違うストーリーを持っている、と言っても過言ではない。

こういう国籍の話、当事者同士でする機会もあまりないので、何かこうお互いに情報交換をすることは大事だと感じている。また何か思いついたら書きますね。今後も宜しくお願いします。

                      サンドラ・ヘフェリン

コメント

  • ブログ上では、初めまして!
    (お仕事ではお世話になっておりますm(^^)m)
    昨日に引き続き、意表のつくテーマに拍手!
    確かに、選択肢は広げるてあげるべきですね。
    私は日本人の両親の元、パリで生まれ9歳まで育ちました。
    28歳になってからずっと疑問だった国籍を大使館に問い合わせたところ、現在は出生主義ではなく(2代続いてフランス生まれは別)、他の条件も私には当てはまらないので日本国籍のままです。
    両親の都合で日本に来たのに、フランスの気質をもったままの私の唯一の証はフランス語の発音のみです。。。

    1:01 PM Haruka.T
    • Haruka.Tさん
      コメントくださっていたのに、レスが遅れてごめんなさいね。こちらこそいつもお世話になっておりますm(__)m なるほど、フランスの場合は2代続けてフランス生まれでないと出生による国籍取得ではないのですね。
      ちなみにドイツの場合は日本と同様に血統主義です。国籍について、先に「親」に関する事を書いてしまいましたが、ようやく「法律」に関するコラムもアップしましたので、ぜひご覧ください★サンドラ★

      3:37 PM サンドラ・ヘフェリン
  • 国籍については色々難しい問題があると思う。

    ヨーロッパでも生地主義(生れた土地に依拠)と血統主義(親の国籍に依拠)の違い、それが父系か母系か両方かでも違うことを考えなければいけないのでは?

    例えば、ドイツは1974年頃まで父系血統主義でそれ以降に両系に、日本は1984年頃まで父系血統主義で、その後両系になった事実がある。

    この場合、1974年以前に生れていたら、いくら両親が二重国籍にさせたくても法律婚した両親のもとに生れた日独(母:ドイツ)ハーフの場合は日本国籍しか得られないことになる。

    逆に、書いてる通り、1984年以前に生れた日独(父:ドイツ)ハーフでは、移行期間に手続きをしていれば別だけど、基本ドイツ国籍しか得られない。

    団塊ジュニア世代は、それらの国籍法の中を生きざるを得なかったので、親の意志だけでは国籍問題は語れない。

    ちなみに、ドイツ語がまともに出来ないのに親がドイツ人やから国籍を持てる可能性がある一方、ドイツ語が完璧に話せるのに親がドイツ人でないため国籍を持てなかった人々、例えばトルコ系移民のことを思うと、二重国籍は特権階級の贅沢品に思える。同じ問題は日本にもあるけど。

    もっとも、ドイツは数年前から部分的生地主義を採用し、ドイツ生れの移民の子供にも国籍を認めるようになったけど、23歳で「選択」(ドイツの場合は一方の国籍は破棄)出来るようになってる。この点は日本より柔軟になってるとも言える。

    ついでに、日本での「20歳選択説」は無用な混乱をきたすだけなので、正しい知識を発信して欲しい。国籍法には「22歳までに」と書いてあるし、その場合の「選択」には、他国籍の破棄は「努力義務」と書いてある。この努力は一生続けても良いことになってる。

    さらに「無国籍」という問題があることも、国籍を語る上で必要では?1984年以前の日本では、実際に無国籍のハーフが生れていたし、うちのウェブサイト(http://www.kreuzungsstelle.com/ )では一瞬無国籍になった人も経緯を書いてくれてる。

    1984年以降生れの子たちにとって二重国籍は「オプション」になってるかもしれないけど、それ以前の人にとっては居住国に国籍が無い場合もあったという事実を、オプション世代は知るべき。

    ウェブサイトを立ち上げた10年前は「国籍選択」はトピックになったけど、いまはあまりそれを聞くことがない。二重国籍を日本政府が黙認してるうえに、居住国に国籍が一つでもあれば問題が発生しないという状況も関係してるかも?

    国籍は国民のアイデンティティのを国家が決めるだけのことやけど、国民個々人のアイデンティティまで影響するから、もっと多くの人に考えた貰いたいテーマやと思う。

    9:51 PM Okamura Hyoue
    • Okamura Hyoueさん
                                                                                                                一緒に考えてくれてありがとう。
                                                                                                                >ヨーロッパでも生地主義(生れた土地に依拠)と血統主義(親の国籍に依拠)の違い、それが父系か母系か両方かでも違うことを考えなければいけないのでは?例えば、ドイツは1974年頃まで父系血統主義でそれ以降に両系に、日本は1984年頃まで父系血統主義で、その後両系になった事実がある。この場合、1974年以前に生れていたら、いくら両親が二重国籍にさせたくても法律婚した両親のもとに生れた日独(母:ドイツ)ハーフの場合は日本国籍しか得られないことになる。逆に、書いてる通り、1984年以前に生れた日独(父:ドイツ)ハーフでは、移行期間に手続きをしていれば別だけど、基本ドイツ国籍しか得られない。

                                                                                                                ↑これだけど、たしかに国籍の法律は時代とともに変わった。でも子供が生まれた時にその国に届出を出したり、法律が変わったらすぐに行動した親もいた。だからOkamura Hyoueさんが書いている通り移行期間に手続きをした親もいたし、移行期間に手続きをすべきだったと思う。そこを、ウチの子はスペイン人だからいいや、とか、ウチの子はドイツ人だからいいや、とか、逆にウチの子は日本人だからいいや、などと親がある意味勝手に決めた場合は後に子供に「なんで??」と恨まれることになる。法律が変わった時に自分の子供に有利なように素早く動いた親もいた。ハーフの子供を持つ親はそういう「法律が変わる」事も含め大使館等と常に連絡をとり法律に詳しくなる事も必要なんじゃないかな。ハーフの子供を持つという事は国籍も含めこういう面倒な手続きが増える、という事でもあるけど、親側にそういう覚悟がなければダメだとも思う。

                                                                                                                あと

                                                                                                                                                                                                                          >ちなみに、ドイツ語がまともに出来ないのに親がドイツ人やから国籍を持てる可能性がある一方、ドイツ語が完璧に話せるのに親がドイツ人でないため国籍を持てなかった人々、例えばトルコ系移民のことを思うと、二重国籍は特権階級の贅沢品に思える。

                                                                                                                                                                                                                          
      ↑これだけどトルコ系移民にしてもたとえば二世や三世はドイツ国籍とトルコ国籍の両方を持っている人もいる。ただし、それは両親が両方とも血筋はトルコ、でも両親のどちらかにドイツ国籍がある場合に限るのだけれど。ただ、おっしゃる通り、両親両方ともトルコ国籍で子供はドイツに生まれたトルコ人の二世、三世だとドイツ国籍を得るためにはEinbürgerungということでトルコ国籍をギブアップしなければならない。

                                                                                                                ドイツ語もまともに話せないのにドイツ国籍を持っているのはおかしい、という意見もあるにはあるのでしょうが、国籍ってそんな論理的なものでないと思うのですよ。それこそ容姿がドイツ人風でないのにドイツ国籍を持っている人は多いし、ドイツ語ができなくてもドイツ国籍の人もいる。それと血筋で見ると、曾おじいさんのみがドイツ人であとは全部ルーツが外国にあったりね。

                                                                                                               でも、そういうふうに、アナタは○○だからドイツ人ではない、とか、日本に置き換えると、あなたは○○だから日本人ではない、と考える人もいるのだろうけれど、ハーフの親は、自分の子供(ハーフ)に対してこういう第三者的な考え方をしちゃダメだと思う。ウチの子はドイツ語できないからドイツ国籍は持たなくていいや、とか、ウチの子は外国で育つから日本国籍は持たなくていいや、ではなく親だからこそキチンと自分の子供(ハーフ)に有利なように動くべきだと強く思います。
                                                                                                                それから日本の場合、国籍を22歳で選ぶことについては
      http://half-sandra.com/column/2011/12/30/581.php
      に書きましたので皆さんに読んでいただけるとうれしい。

                                                                                                                >1984年以前の日本では、実際に無国籍のハーフが生れていたし、

                                                                                                                 ↑これに関しては本当に酷い話ですね。たとえば70年代生まれで、母親が日本人、父親がドイツ人、でも親は結婚していなかったため、日本の国籍もドイツの国籍ももらえず一瞬無国籍になった子がいますよ。理由は日本側は「父親が日本人でないと子供に日本国籍を与えない」ため、そしてドイツ側は「父親がドイツ人というだけではダメで、親が結婚していないとダメ」という理由。子供には何の罪もないのに酷い話です。もっとも後で両方とも国籍をもらえたんですけどね。
                                                                                                                >1984年以降生れの子たちにとって二重国籍は「オプション」になってるかもしれないけど、それ以前の人にとっては居住国に国籍が無い場合もあったという事実を、オプション世代は知るべき。

                                                                                                                
      ↑同感です。昔のハーフは大変だった!どう大変だったかという事に関してはぜひ皆さんに http://half-sandra.com/column/2011/10/26/440.php
      を読んでいただきたい。国籍の面でも無国籍の危機にさらされたり、実際に無国籍になったりと、ハーフは散々でしたね。ピアニストのフジコヘミングさんは長年無国籍だったし悲惨でした。(フジコヘミングさんは、父親がスウエーデン人で母親が日本人のため本来はスウエーデン国籍だった。だが、フジコヘミングさんは日本育ちで18歳までに一度も入国した経験がなかったためスウエーデン国籍を抹消された。同時に当時日本は父系血統主義だったため、父親がスウエーデン人のフジコヘミングさんは日本国籍もとれなかった。)

                                                                                                                 >国籍は国民のアイデンティティのを国家が決めるだけのことやけど、国民個々人のアイデンティティまで影響するから、もっと多くの人に考えた貰いたいテーマやと思う。
                                                                                                                ↑たしかに多くの人に考えてもらいたいテーマですね。これからも機会あればこのテーマに取り組んでいきたいと思います★サンドラ★

      11:18 AM サンドラ・ヘフェリン
  • 親が、片方の国籍しか与えない理由に気づきました。
     
    日本人がアメリカや外国に移住した場合、大抵『日本』を捨てる覚悟で移住しています。 中には日本が嫌いで、日本に見切りをつけて、外国に移住する人もいます。 
    そういう人達は、祖国に、もう思い入れがないし、新天地で新しい一歩を歩む覚悟で来ているから、子供に日本国籍を取らす必要を感じないんだと思います。日本に身寄りがない人は、なおさらそういう気持ちになりますよね。。。 

    でも、だからといって、子供の未来の可能性なんて分からないんですから、親がいくら日本が嫌いでも、子供には選択権をあげるべきだと思います。

    9:15 PM Shuhei Shigeno

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