グーグル翻訳機能は危険?!~言語にまつわる誤解あるある~
「ハーフ」だけの話ではないけれど、
色んな国の人が交流する中で「言語」が一つのネックになることがあるようです。
たとえば今、多くの人がFacebookを使っていますよね。このFacebookには翻訳機能なるものがあり、たとえ自分が出来ない言語・話せない言語であっても、「翻訳を見る」をクリックすれば翻訳が出てきます。
ところがこの翻訳というのがミソで、Facebookの翻訳機能に限らず、Google翻訳機等もそうなのですが、かなりテキトーな翻訳が出てくるのであります。そしてそのテキトーな訳を真に受けて、色々と困った判断をしてしまう人々もいたりして、今回はそんなお話です。
先日、あるドイツ人がFacebookにドイツ語で“verdammt gut!“(訳: 「すごく良いね!」「最高だよ!」の意味)と書いたところ、
その直後にドイツ語を勉強中の日本人から「そんな汚いドイツ語を使うなんて!」と友達を切られたそうです。
聞いてみると、そのドイツ語を勉強中の日本人は「verdammtを翻訳機に入れてみたところ、英語で言うdamn(「こんちくしょう」「くそっ!」などの、怒り・不満・嫌悪・罵倒などを表す言葉)という非常によろしくない言葉が出てきたので、そのドイツ人に対して「そんな下品な言葉を使う人だったなんて」と幻滅したんだそうであります。
上記verdammt gut に関してはsehr gutを更に強調した言葉で決して悪い言葉ではないし、ドイツの小学校の先生が授業中に普通に使っている言葉です。“verdammt lecker“ (「とっても美味しい!」)“verdammt lang her“(「すごい昔だよね」)“verdammt verliebt“(「恋に夢中」)など、どれもこれもドイツの街角ではよく聞かれる言葉です。確かにverdammtだけだと、「こんちくしょう、くそっ!」の怒りを表す言葉ではあるのですが、そこは文脈次第。「とっても美味しい!」など、何かを「強調」したい時に使われる言葉でもあるのですね。
・・・なんだかドイツ語のマニアックな話になってまいりました^^;
この誤解、たとえば日本人が「極めて何々」と言ったのを、日本語の分からない人が「『極』は『極道』(ゴクドウ)と同じ字だから、その日本人はアブナイ日本語を使っている!」と激怒するのと似たような感じかもしれません。もっとも、日本語を勉強中の外国人の人が「極道」なる単語を知っているかは不明ですが。
私自身、先日こんなことがありました。私がFacebookで色んな人と会話をしていると、それを見た日本語の出来ないドイツ人が誰かの(日本語の)発言をFacebookの翻訳機能で調べ、その結果、「ボクの悪口を言っている!」と激怒しました。誰も悪口を言っていないし、こちらが「そんな事ないよ」と言っても、「でもFacebookの翻訳機能ではこう書いてある!」とか「でもGoogle翻訳機でもこう書いてある!」などと反論されまして、、、本当にこの手の誤解は疲れるのでございます。「どういう訳が出てきたの?」と聞くも、「とにかく酷いことが書いてあったんだよ!」の一点張り。けっきょく日本語の「どの文章」の、「どの翻訳」(いい加減な翻訳)が誤解を招いたのかは最後まで教えてもらえませんでした。
皆さんもこういった誤解、経験したことありますか?
最後に一つ、ほのぼのした話。
昔、日本での駐在を終え、フランスに帰ったフランス人ご夫婦(ステキなご夫婦でした!)がいたのですが、帰ってしばらくしてから本人から「日本にいた期間中、どうもありがとうございました」と、お礼のメールが「英語と日本語」で送られてきました。以下が、そのメールの一部抜粋です。
We look forward staying in contact.
我々は前方に接触して滞在しております。
Wishing you a Happy New Year 2009
ハッピーニューイヤー2009を願って
日本語が話せない夫婦でしたので、上記、おそらく英語をGoogle翻訳機か何かに入れた結果出てきた日本語だと思われます(笑)「ハッピーニューイヤー2009を願って」・・・かわいいですね^^でもでも「我々は前方に接触して滞在しております。」っていうのは、悪い意味で「さすが翻訳機!」という感じがしますね。。。あはは。
こんな、プッと笑ってしまうような、ほのぼのとした気持ちにさせられるものも確かにありますが、Google翻訳機やFacebookの翻訳機能は実はSNSなどの場において様々な誤解を引き起こしている(もちろん最終的には機械ではなく、誤解をする人間が悪いのですが)のですね。ふだんの会話でも、「自分が少しかじっただけ」の言語の場合、相手の言葉の端だけを聞いて勘違いすることは、自分も含めて気をつけたいですね。
・・・今回は、というか今回も、「ハーフ」そのものというよりは、「異文化あるある」「言語にまつわる誤解あるある」になってしまいましたが、また「ハーフにまつわるあるある」のエピソードも書いていきますね!
みなさん、今後もどうぞよろしくお願い致します。
サンドラ・ヘフェリン
※
先日、中東のテレビ局「アルジャジーラ」が「ハーフ」について番組を作りました。私も出演させていただき、5:00のところで話していますので(アラビア語の吹き替えで!)ぜひこちらアルジャジーラをご覧くださいませ。収録の際にお世話になったシリア人スタッフ、3人ともフレンドリーでとても気持ちの良い収録でした。どうもありがとうございました☆場所を貸していただいたJapan Foundation国際交流基金もどうもありがとうございます☆
コメント
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サンドラさんこんにちは。いつも興味深く拝見しております。
日本語にも「メッチャクチャおいしい」とか「めちゃくちゃステキ」とか使いますよね。でも、この「めちゃくちゃ」だけ他言語に訳すと悪い意味にしか出てこない。こんなことはちょっと想像力があればわかりそうな気もしますが・・・。
サンドラさんのテーマ、先日の諷刺画についてもそうでしたが、無意識にいつも感じていることを、意識して取り上げられて、いつもハッとさせられ、「そうそう」と大きくうなずきながら読ませていただいています。
これからも、興味深いテーマ、よろしくお願いします!7:28 PM トルン紀美子 -
トルン紀美子さん、
コメントありがとうございます★
>日本語にも「メッチャクチャおいしい」とか「めちゃくちゃステキ」とか使いますよね。でも、この「めちゃくちゃ」だけ他言語に訳すと悪い意味にしか出てこない。
↑まさに、それなんです!書いてくださってありがとうございます。
またご連絡しますね!お待たせしてすみませんm(__)m★サンドラ★5:07 PM サンドラ・ヘフェリン -
自動翻訳はあくまでも参考程度にしか使ったことがないです ^^;
自動翻訳で翻訳すると、ド直訳になってしまうため、意味が分からなくなってしまうんですよね。8:52 PM Jannat -
Jannatさん、
「ド直訳」になってますよね。翻訳機。ひとつひとつの単語をド直訳で訳すから、文章として見た時にはすでに意味不明という。。。そういうものだと分かっていれば楽しむこともできるけど、真に受けるのはいけませんね。。★サンドラ★
5:02 PM サンドラ・ヘフェリン -
サンドラさん、こんにちは!(書き込みは初めてです。)
私は毎日ドイツ語入門編を聞いている、ドイツ語初心者です。
白井先生とサンドラさんの、お茶目な掛け合いが微笑ましくて楽しい♪
大人な女のドイツ一人旅、行きたいな~。否定的な言葉やちょっと品がない言葉が、ひるがえって肯定の強調の
意味に使われることが日本語にもよくありますね。
「全然いいよ!」「ヤバい!」「クソワロタ」等々。。。
ドイツ語も辞書引いた際に、そういうのにちらほら出くわします。
2番目か3番目の意味で《俗語》としてホメ言葉になってて、
実際はそっちの方が日常会話ではよく使われるんでしょうね。
今思い出せるのは「geil」くらいですが…「verdammt」覚えます(^^)b
否定語・下品(?)な語→肯定の強調、はもしかしたら万国共通なのかも
しれませんね。翻訳機は、単語一つ一つを愚直に訳すことしかできない様子で、
便利とはいえ、機械の限界を感じます。
それを理解した上で翻訳にかけて、相手に「訳したらこうなったけど、
これで正しいの?」と訊くことができれば、トラブルは防げるのかな。
自分も翻訳機のワナにはまらないように、気を付けますm(vv)m11:55 AM ぱくぱくぱくちー -
ぱくぱくぱくちーさん、
コメントありがとうございます。NHKラジオの「まいにちドイツ語」を聴いてくださっていて、うれしいです。再放送もそろそろ終わりに近づいてきているので、こんど白井宏美先生と女子会をするんですよ(^^)
ぱくぱくぱくちーさんが書かれていた
>否定語・下品(?)な語→肯定の強調、はもしかしたら万国共通なのかもしれませんね。
↑たしかに!あえてネガティブな言葉が強調するために使われていることが多いですよね。
「ハーフ」の話もこれからも書き続けますが、「異文化あるある」や今回のような「言語あるある」もまたちょくちょく書こうと思っています。これからもよろしくお願いします★サンドラ★
4:56 PM サンドラ・ヘフェリン -
こんばんは。久しぶりにコメントさせていただきます。
よくぞ、よくぞ取り上げて下さいました、翻訳機能のテーマ!
日→英の翻訳をしているのですが、これ、本当に困るんです。「原稿はもう英語に訳してあるので、ネイティブチェックだけお願いします」という依頼が時々入るのですが・・・。読んでみたら、英語の言葉がごちゃまぜに並んでいて、何が何だかさっぱりわからない。
一体どうしたらこのようなぐちゃぐちゃなものに仕上がるのだろう??と驚いていたら、ネット上の翻訳機にかけたものだということが判明しました。結局日本語の原本から英訳することになるのですが、新規のお客様の中には「そんなこと言ってお金をもっと取ろうとしているのでしょ」と、信じてもらえないこともあって(><)
同じ苦労をされている翻訳者の方々のためにも申し上げます。決して翻訳料を多く取ろうとなんてしていません!論文などの専門的な資料を扱っているからかもしれませんが、ネイティブチェックのみでOKだった原稿は今までに一度もありません。ご自身で英訳されたものがある場合も参考にはさせていただきますが、確実な訳をお渡しするためにも、必ず日本語の原本からの英訳をしています。10:41 PM Misha -
Mishaさん、
コメントありがとうございます。まさに「翻訳あるある」ですね(笑)
依頼者は翻訳機にかけてザッと翻訳して、あとはネイティブの人に見てもらって2、3箇所なおしてもらって、翻訳の出来上がり!・・・みたいに簡単に考えているのかもしれませんね。
Mishaさんのご苦労よくわかります。「ネイティブの人はザッと目を通してササっとなおしてもらえればいいから」みたいに簡単に言うけど、これが翻訳機にかけただけのものだと、本当に単語が並んでいるだけで文章にもなっていないし、最初から日本語から外国語に翻訳しなおす必要があるんですよね。★サンドラ★4:51 PM サンドラ・ヘフェリン -
サンドラさん。今回の話題は、以前に機械翻訳用辞書の作成に関わっていた私としましては、公私共に興味のある話題でもあり、また耳の痛い話題でもあります。
機械はあくまでも機械であり、人間の脳が持つすばらしい「飛躍力」というものがありません。機械は、こつこつと地道に一語ずつまたはフレーズ毎に、自分に内蔵された辞書を引きながら、ただ登録された情報を打ち出してくるだけです。そこには「意味を考える」という作業がありませんから、結果として出てきた翻訳文が意味不明になるのです。
機械翻訳の問題点は皆さんもご存知のことですから、これ以上申し上げるつもりはございません。私はむしろ、機械翻訳を通して、言語コミュニケーションが完全に不可能な人たちが、互いの存在を認め合えるという点に感動しています。共通の言語をもたない人たちが、地球の反対側にいながらも、グーグル翻訳などを利用して、共通の趣味があることを発見したり、同じ問題に直面していることに共感したり・・・ということが実際に起こっています。互いの存在すら知らなかった人々の間のコミュニケーションを可能にする、これはすばらしいことだと思います。
機械翻訳をこんな風に使っている人たちの多くは、「機械が行う翻訳には限界がある」ということを理解しています。その限界の壁を打ち破るために、新しい言葉を学んでみようという気持ちが沸くようになれば、それは機械翻訳のもつパワーとなるだろうと思います。
8:25 PM SKM -
SKMさん、
コメントをありがとうございます!そしてレスが遅れましてすみません。
>機械はあくまでも機械であり、人間の脳が持つすばらしい「飛躍力」というものがありません。機械は、こつこつと地道に一語ずつまたはフレーズ毎に、自分に内蔵された辞書を引きながら、ただ登録された情報を打ち出してくるだけです。そこには「意味を考える」という作業がありませんから、結果として出てきた翻訳文が意味不明になるのです。
↑に納得しました。語学面での問題が機械で全て解決!というほど言語は単純ではないですよね。文脈のところが大きいですし、言葉は本来機械によってではなく人間が作ったものですしね。
でもいつか機械が人間を越えて(!)文脈まで全部理解してしまう機械が登場するかもしれないですけどね★サンドラ★12:25 PM サンドラ・ヘフェリン -
サンドラさん、お返事をどうもありがとうございます。
白井先生と女子会だなんて、素敵ですね!美味しいドイツワインでどーんと乾杯&お祝いするのでしょうか(^^)。いいなぁ♪再放送終了は寂しいです…お二方が、またラジオに出て下さることを願っております☆
サンドラさんの著書も拝読しており、「ハーフあるある」はとても興味深くて、純ジャパの私としては「純ジャパあるある」に深くうなずいてしまいました。ガチガチで典型的な純ジャパなもので、目からウロコポロリの連続です…(苦笑)。そしてハーフで日本にいたら出くわすあんな事、こんな事…もし自分がハーフだったらきっとそうだろうなぁと納得します。
「異文化あるある」「言語あるある」も、サンドラさんの鋭い切り口と分析が面白く、読むのが楽しみです。これからもぜひぜひ、発信して下さい(^_-)-☆6:02 PM ぱくぱくぱくちー -
ぱくぱくぱくちーさん、
コメントありがとうございます。「まいにちドイツ語」の再放送、今朝は私も聞きました。今日は日本語でちょっと長めに話せてうれしかったです(笑)
ラジオ聴いてくださってうれしいですし、本にも興味を持ってくださってうれしいです☆今後も「ドイツあるある」や「異文化あるある」など色んな事を書いていきたいと思っていますので、どうぞよろしく~☆
あ、語学に関しては先日友達が面白いリンクを貼り付けてましたので、以下をご覧ください。
翻訳者の何かのスイッチが入る瞬間
おもしろいですよね~☆★サンドラ★12:27 PM サンドラ・ヘフェリン -
英語の語彙が二重構造になっていることは良く知られています。ドイツ語・オランダ語やスカンジナビア諸語に由来する生活に密着した語彙と、古代ギリシア語・ラテン語に由来する学術的色彩の濃い語彙が同義語で並んでいます。 たとえば、loveとaffectionとか、getとacquire のような組み合わせです。日本語の語彙体系もこれに似ていて、母親の子守唄と共に覚えた「やまとことば」と、遣隋使や遣唐使が持ち帰った書物に載っている「漢語」の二重構造です。たとえば「山」や「島」という文字であれば、やまとことばでは「やま」・「しま」と読み、漢語では「さん」・「とう」と読むわけです。
以上、ヘフェリンさんには釈迦に説法のことを申しました。
ところで、具体的な山岳や島嶼の名称は、それぞれの山や島で、昔から決まった読み方があります。たとえば、群馬県の赤城山であればアカギヤマ、太平洋上の硫黄島であればイオウトウというのが、地元の方々や平均的日本人が日常会話の中で用いている読み方です。
ところが、地図を見ると、必ずしも、そうなっていないようです。地図では、赤城山はアカギサン、硫黄島はイオウジマとなっていたと思います。この読み方は、国土地理院が定めているのか、気象庁が定めているのか、私は知りません。詳しい方に教えて頂きたいところです。どなたが定めているかは知りませんが、地元の人達の呼び方をまったく考慮していない気がしていました。行政用語が庶民感覚とかけ離れている例だと思っていました。
このうち、赤城山は、何年か前に、地図上の名称をアカギヤマに変更したという記事を見かけました。私は、それを読んで、素直に良かったなあと思いました。国定忠治の芝居だって「あかぎのヤマは今宵限り・・・」ですからね。
一方、硫黄島については、安倍晋三氏が総理大臣になられた時に、イオウジマという地図上の呼称をイオウトウに変更する、と発言されました。このニュースを聞いた私は、アカギヤマと同様に、日本人の一般的な呼び方になるのだから良かったなあ、と思いました。
ところが、このニュースを聞いた、ニューヨークタイムズだったかワシントンポストだったかのコラムニストが、「安倍総理は、イオウジマの名前を変えることで、第二次世界大戦での日本の犯した過ちを隠蔽しようとする歴史修正主義者である」という主旨の記事を書きました。このニュースを聞いて、私は、あきれました。この発言で、このコラムニストの日本語に関する知識が、ほとんどゼロであることがわかったからです。彼は、日本語の語彙に英語と似た二重構造があることも、山岳や島嶼の名称で行政用語と地元の方々の呼び方にズレがありがちなことも、全く知らないくせに、えらそうにホザいていることは明らかでした。
ちなみに、私の歴史認識は、安倍総理や石原元都知事にとても近いので、この二人の政治家の発言が批判されると、つい弁護したくなってしまうのですが、この問題は、歴史認識の問題ではなく、純粋に日本語の問題です。私の歴史認識が、仮に、現実の私とは正反対の立場の鳩山由起夫や菅直人と近かったとしても、この件では、私は安倍総理の発言を支持し、アメリカのコラムニストに腹を立てたことでしょう。
だいたい、日本にやってくる外国人で、日本語をほとんど知らない人たちは、日本で一番高い山をフジヤマと呼びますが、そんな呼び方をする日本人などいません。日本人も、日本語がよくできる外国人も、フジサンとしか呼びません。日本人で、外国人と接したことの無い小さな子供やお年寄りが、外国人から「フジヤマに行く方法」を聞かれて、「そんな山、知らない」と答えていた場面に遭遇したことがあります。フジヤマがフジサンと結びつかなかったからでしょう。
このコラムニストが、来日して、仮に、このような日本人に「フジヤマはどこですか?」と聞いても「知りません」と答えられ、「フジサンはどこですか?」と聞いたら、ちゃんと答えてくれたとしたら、「安倍総理の歴史書き換えがここまで進んでいるのか!」と、鬼の首でも取ったように書き立てるのでしょうかね。
世界の公用語として日本語よりも圧倒的に優位な英語を母語とする人たちが、無知ゆえに発言しても、それが「正しい意見」として世界に受け入れられるのかと思うと、悲しくなります。1:09 AM terre12756 -
同じテーマで、続けて投稿します。
日本における外資系企業での話です。
大阪万博の頃のエピソードですから、1970年の出来事です。
ある外資系企業において、日本に着任したばかりのアメリカ人の日本法人社長は、日本語がまったくできない人でしたが、翻訳担当部署に対して、自社宛の手紙は、すべて、文面を省略せずに逐語的に翻訳するよう命じました。その外資系企業に、ある「純粋」の日本企業から手紙が届きました。「純粋」とは、外資系企業との取引の経験の無い会社という意味です。文章は日本語で書かれていて、文面は、時候の挨拶のあとに「いつもお世話になっています」と書かれていて、その次の文から本題に入っていました。
社長は、その手紙の逐語的翻訳を読み、「この会社は、我社と過去に取引実績があるはずだ」と解釈しました。日本のビジネス文書の冒頭には、過去の取引実績に関係なく「いつもお世話に」と書かれる習慣があることを知らなかったのです。
ベテランの社長秘書(とても有能な方でした)は、「この会社と我が社には、取引実績はありません」と答えましたが、社長は、「いつもお世話に」と書いてある以上、必ず過去に取引があったはずだ」と、秘書の進言を聞き入れません。秘書が、日本の商習慣としてのビジネス文書の定型表現について説明を始めると、社長は怒りをあらわにして、秘書を「嘘つき」とか「無責任」などとののしりました。
何人もの社員が書庫から会議室へ、古い伝票のダンボールを何箱も運び込むことになり、手分けして過去の伝票を調べ上げましたが、当然、その手紙をくれた日本企業との取引の記録は発見されませんでした。後日、その日本企業の社員が訪ねてきたときに聞いてみると、やはり、過去の取引実績は皆無であることを明言しました。
ここに至り、アメリカ人支社長は、「日本の商習慣」としての「ビジネス文書の定型表現」の意味を理解しました。そして、その有能なベテラン秘書に謝罪しました。
しかしながら、その秘書は、社長の謝罪の言葉を礼儀正しく受け入れた直後に、退職願を提出しました。社長は、慰留につとめましたが、秘書の決意は固く、退職して行きました。
私は、あるパーティの席で、このアメリカ人社長から、「日本のくだらない商習慣のせいで、優秀な社員を失ってしまった」という嘆きを聞かされました。
過去の取引実績に関係なく「いつもお世話になっています」でビジネス文書を書き始める日本の商慣習が「くだらない」のかどうかについては賛否両論あるでしょうが、少なくとも、日本語をよく勉強してから発言するのが順序ではないかと思いました。4:43 AM terre12756 -
terre12756さん、
興味深い話をありがとうございます。
「いつもお世話になっております。」はおっしゃる通りビジネスにおけるある意味挨拶の一種なのに、それを真に受け「以前に取引があったはずだ!」・・・なんだか笑い話のようですが、悲しいかな、とてもよく想像できます。こういうこと、意外とあります。前にも一度書いた記憶があるのですが、日本語の家を出る時の「行ってきます」というのが「挨拶」だという事をガンとして信じない外国人がいたりしました。「家を出る時の挨拶ですよ」と教えても「いや、彼女は、どこかに行ってまた家に戻ってくる、という事を強く家の人に伝えたかったから、このように言った!」と言い張る(笑)
こんな笑い話のようなことが起こるのも、文脈を見ようとしないから、また現地の人の言うことを聞かないからなんですけどね。「直訳でいい!」という意見もありますが、極端な直訳は意味を無視した誤訳になりますしね(機械での翻訳しかり、「行ってきます」しかり)。
コラムに書いたFacebookのエピソードに関しては、以下のような感じなのではないかと想像します。
・寂しかったり満たされない気持ちの夜Facebookをのぞく
・そこで自分の分からない言語で書いてあって更に不安になる。でも好奇心も手伝って、Facebook翻訳機能にとりあえず外国語を入れてみる
・「こんなこと書くなんて!」となる。
・・・といったところでしょうか。もしかしたら私の妄想のし過ぎかもしれませんんが(笑)
でも、上記のFacebookのエピソードに限らず、「言葉が分からない」という「不安」からアレコレ疑い、トラブルを起こすケースは結構目立ちますよね。
前に「ハーフが美人なんて妄想ですから!!」(中公新書ラクレ)という本を書いた時に、まさに「日本語が分からないドイツ人」が本をパラパラとめくったのですが、本に少しある挿絵のイラスト「だけ」を見て、「差別的だ!」と言った事がありました。内容(文章)を読まないで、そんな事を言うなんてビックリですが、向こうからすると、日本語が読めないから「自分の能力の範囲内」つまりは絵で判断しちゃうんですよねえ。こういう「ちゃんと読まない人」または読んでも「文脈が分かるほどの語学力のない人」による誤解が一番困ります。興味を持ってくれるのはうれしいけど、少ない語学知識の中、全部を自分の知識の範囲内で理解しようとすると、まさに「勝手な解釈」になってしまいますし、よからぬ結果になるのは目に見えてますよね。
・・・っと、語学にまつわる「あるある」でした。語学については、今度ポジティブな「あるある」話もまた書きますね★サンドラ★1:29 PM サンドラ・ヘフェリン -
追記です。翻訳機の話からかなり横にそれます。
terre12756さんの書き込みで思ったのですが、このアメリカ人社長は日本の習慣を勉強したほうがよかったのでは?と思ってしまいました。70年代だから無理もないのかもしれませんが、世界はアメリカの習慣で回っているわけではないからです。
私が聞いた話だと、メキシコにもビジネス文書を書くときに、季節のことや、いつもお世話に~、に近いことから始めるので、前置きがめちゃくちゃ長い、と聞きました。インドやバングラデシュでも、季節のことから始めます。
個人的な見解になりますが、アメリカ人社長の考えは、くだらない習慣=回りくどくて理解できない習慣、なのかもしれませんが、そのアメリカ人の習慣をドライすぎて冷たい、人間味がない、ととらえる人たちも世界にはたくさんいるのだと思います。私自身は全ての人たちが同じではない、という前提のもとで人を見るようにしていますが、自分が生まれ育った文化しか知らなかったりすると、全て同じように考えてしまいがちで、想像力に欠けてしまうのかもしれません。
そういう意味では自動翻訳も、文化の違いをかなり無視したものになってしまうのかな、と思ってしまいました。12:55 PM Jannat -
Jannatさん、
コメントありがとうございます☆
そうなんですよね。Jannatさんも
>個人的な見解になりますが、アメリカ人社長の考えは、くだらない習慣=回りくどくて理解できない習慣、なのかもしれませんが、
と書かれていたように、その人(アメリカ人社長)は当時そういった挨拶を「日本のくだらない習慣」だと思っていたのかもしれませんが、そんなのは余計なお世話だし、まずは現地(日本)の文化を理解することから始めようよ、まずは日本人の秘書の意見を聞こうよって、話ですよね。なんたって秘書は日本語が母語なわけですからねえ。母語の人の「それは挨拶ですよ」という発言を信じないのって、それこそ信じられないですよね(呆)★サンドラ★2:39 PM サンドラ・ヘフェリン -
サンドラさん、
「翻訳者の何かのスイッチが入る瞬間」のリンク、ありがとうございます。そう!そうなの!と思うコメントがたくさんあって、なんだか嬉しくなりました(*^^*)
ユーモアって素敵ですね。サンドラさんのサイトも!9:58 PM Misha -
サンドラさん、こんにちは、初めまして。
パリ在住の日本人女性です。先日出産したわが子の国籍をどうしようか、と考えて検索中にこちらのサイトにたどり着き、興味深く拝見しています。
先日、私自身も日本語のサイトをフランス人の主人に見せたく、フランス語に訳さなければならなかったのですが、時間が全くなかったので某サイトの翻訳機能に突っ込みましたらひどい翻訳で、
フランス人の主人は全くわからないと、申しておりました。
特に言語体系の違う言語同士は難しいみたいですね。私の父は会社を引退してから、本人の得意な英語翻訳の仕事をしていたのですが、非常に難しい医療関係の、特許に関するものでした。
よく父は難しい文章を訳すのに考え込んでいましたが、
某サイトに突っ込んでみれば、と言わなくて良かった、と翻訳機能をしばらく前から使っている私は今日思います。10:46 PM Lys